「あの…里香、大丈夫ですかね?」
「あら…裕一君は里香のこと信じてないの?」
「いや…そういうわけじゃ…」
 僕は今、里香のお母さんと二人で居間に座っている。台所からは、楽しげな鼻歌が聞こえる。もちろんそこにいるのは里香だ。
「あの子、退院してから料理手伝うようになってね…今じゃなかなかの腕前なのよ?」
「そう…ですか」
 里香のお母さんはとても嬉しそうに笑っている。きっと、娘のことが誇らしいんだろう。
 しかし…里香が僕に手料理を食べて欲しいだなんて…。まったく予想外だった。そりゃさ、婚姻届だって書いたし、いつかは毎日食べられるようになると思ってたけど。
『裕一、明日あたしの家に来て。ご飯食べさせてあげる』
 そう言った里香の顔は、僅かに赤く染まっていた。そんな顔されたから、僕も照れて頷くことしかできなかった。
「あら…できたみたいね」
 いつの間にか鼻歌は終わっていた。里香が両手にお皿を持って、歩いてくる。
「裕一、おまたせ」
 古いちゃぶ台に置かれたのは、おいしそうな肉ジャガだった。
「…これホントにお前が作ったのか?」
「む、どういう意味よ」
「いや…だって」
 やっぱり僕には信じられない。里香が、あの秋庭里香が料理を!しかも肉ジャガだなんて。
「いらないならいいわよ。あたしが食べるから、あんたは帰って」
 いけない。里香が不機嫌になっている。そりゃせっかく作った料理を食べてもらえないってのは、相当頭にくるはずだ。
 それにしても…里香ってエプロン似合うよなぁ。白くて、ふわふわとフリルがついた可愛いデザインだ。まあ、里香のお母さんの仕業だろうけど。
「…そんなに食べたくないの…?」
「いやいやそんなことないって!ちょっと考え事してただけだから!」
「里香のエプロン姿可愛いな〜って?」
「ママ!!」
「おばさん!!」
 けらけら笑っている。この人、こんなキャラだったっけ…?
「〜…ほら、早く食べてよ」
「あ、ああ」
 いただきます、と手を合わせて肉ジャガに箸を伸ばした。
「…うまい」
 味付けは甘過ぎず辛過ぎず、ホクホク感が素晴らしい。うまい。いけない、ちょっと泣きそうな僕がいるぞ。
「…良かった」
 安心した表情の里香。隣りでニヤニヤしてる里香のお母さん。
「どう裕一君?将来的に毎日食べることになる味は」
 その一言で、僕と里香は照れてしまった。目が合う。ニコッと笑うと、里香も笑ってくれた。



おわり


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