二人と、看護婦だけの秘密

僕は今晩も、秋庭里香というプレートがかかった病室の前にいる。
心の中がザワザワと動くのを感じた。
コンコン……
軽く二回だけ、中の里香に聞こえるようにノックをした。
「いいよ……はいって」
中からは里香の気恥ずかしそうな声が聞こえ、僕はドアを開けて入っていく。
ガチャッ……
僕が静かにドアを開けると、そこには月の光に照らされているだけの質素な病室があった。
その病死に置かれた白いベッドの中、僕とは不釣り合いにも思える美しい少女が顔を赤くして僕を見ていた。
誇張ではなく、僕にはその里香のいる場所だけが世界一の光に満ちている気がした。
……ひょんな事から僕達は関係を持ってしまい、里香が無事に手術を成功させた後でも、
僕達はどちらともなく、お互いを望んでいた。
僕は里香の身体を出来るだけ気遣いながら、
里香は自分自身の心に戸惑いながら、それでも二人で気持ちよくなった。
病人の癖にとんでもない行為だと思われるかも知れないけれど、僕達は幸せだ。
そして、僕は里香にお決まりの挨拶をした。
「……里香、こんばんわ」
僕と顔を合わせて余計に恥ずかしくなったのか、そういう時の癖で里香は顔の辺りまで布団を上げていた。
けれど、目は機嫌が悪そうだった。
「……裕一、遅いよ」
里香の言うとおり、僕は亜希子さんやその他の職員の目をかいくぐるために、
この密会の時間に少し遅れてしまったのだ。
僕と関係を持とうが手術が成功しようが、里香の僕に対する態度は少し優しくなった程度なので、
……多分また僕は里香に怒られるだろう。
けれど、そんな性格の里香と僕は生きていく事を選んだのだから、何も不満は無い。
だから僕は里香が出来るだけ納得するように弁明をした。
「わ、悪い…… ちょっと亜希子さんが俺の部屋の周りうろついててさ、
 見つからないようにしてたら遅くなっちゃった」
僕がそう言うと、里香はやや腑に落ちないといった様子だが許してはくれた。
そして、言葉と初々しい雰囲気だけで僕を自分のベッドに誘う。
「わかったわよ。……じゃあ、遅れたのはもういいから……」
そこから先を里香に言わせると恥をかかせてしまう事になるから、
僕は自分から里香のベッドに少しずつ近づいていき、
里香と前から向き合うようにしてベッドに上った―――
――――「裕一……」
目を瞑った里香はベッドの上で前から僕に強く抱きしめられて、恥ずかしさと嬉しさが混じった声を出す。
僕はというと里香の身体をぎゅっと抱きしめて、その存在を出来る限り感じていた。
小さな彼女の息づかいが、体温が、僕の腕の中にあった。
僕が知っている限りのこの世のどんなものよりもずっとずっと、里香は温かかった。
「ゆういち……あったかいな」
里香も僕の身体を同じように感じてくれているのかなと思うと、僕はとても嬉しかった。
「里香……」
彼女の気持ちに答えるつもりで、僕は両腕にを力を込め里香の背中と肩を強く抱いてやる。
里香の小さくて柔らかい胸が、僕の大して厚くない胸板に布越しに触れてふにっと形を変えた。
お互いの鼓動が聞こえるような気さえする。
「うぅんっ……」
半開きになった里香の口から甘さの混じった声が漏れ、僕は嬉しくなりっぱなしだった。
こんなちょっとした事で思考が飛んでしまうと、里香が目を瞑って口づけを求めてきた。
小さくて色の良い唇が無防備に僕の目の前に差し出され、僕はそれを優しく奪った。
里香と僕は少しずつ舌を絡ませていって、やがて小さな水音が聞こえた。
すると、里香の長い艶々とした髪の毛や肩の辺りから、いつもと同じシャンプーの香りや、
男のモノと全く違って不快ではない里香自身の体臭がしているのに気が付く。
そのせいで僕の大事なところが固くなって、里香の下半身に当たってしまった。
これはしょうがない。生理現象だ。
その僕の身体の変化には里香も気付いたようだ。
里香が何かに気付いたような顔をしている。
「……ん?」
相手のことをよく思っているから、お互いのほんの少しの変化も感じとれるのかもしれない。
「あ、ごめん……」
「いいよ、別に」
僕が先に謝るようにすると、里香はほんの少しだけむくれて許してくれた。
元々こういう事では潔癖だった里香だから、この反応は優しすぎる位だ。
僕がそのまま里香を抱いていると、里香は僕の気持ちを推し量るようにこう聞いてきた。
顔を赤めて上目遣いで恥ずかしそうに、普段の里香は見せない表情だ。
「ねぇ裕一……わたしに……してほしいの? 」
「……あ、うん」
「夜、私に会うまではいつも我慢してるもんね」
里香の方からこんなにおしとやかになる事は、日常生活ではまずない。
それだけに、里香のその言動は特別なものだということだ。
「じゃ……始めるからね」
里香は小さい声でそういうと、僕の下半身の方へ移動してズボンをするすると下げて脱がす。
日焼けなどしていない細い両手が、僕の下半身を裸にしていく。
今、里香が僕に見せている恥ずかしそうな表情は、この広い世界で僕だけしか見られないんだ。
そうだよな。里香は特別わがままなんだから。
そんなことを考えていると、里香はバツンバツンにテントを張っている僕のパンツまで脱がす。
勃起しきった僕のペニスが外気に晒され、ピクンピクンと脈打った。
「うぅ……」
初めてではないといえ、そそり立つ肉の棒をすぐ目の前にした里香は反射的に怯えた声を漏らす。
ちゃんと洗ってきたから、あまり匂いがきつくないのが救いかも知れない。
里香は心を決めたようで、ゆっくりと僕の目を見た。
「……裕一? まず、手でしてみるけど……いいよね?」
里香は最初に僕の意見を求めてきて、僕はそれにコクンと頷いた。
すると里香は白くて細い両手を、僕のペニスに添えて撫で回しはじめた。
里香の手で優しく、横に縦に何度かさすられている内に、僕のペニスの包皮が剥け始める。
僕は、里香がこのままゆっくりと愛撫を続けるのかなと思っていると、
里香はいきなり亀頭の包皮の辺りを右手で持ち、ズルッと僕の包皮を剥いた。
「うっ……」
僕がその感覚に声を上げても、里香は構うことなく手コキを続けた。
でも、里香が僕を気持ちよくしようとしているのはわかっているから、
僕はその拙い愛撫を楽しむ事にする。
里香は自分に真っ直ぐに生きてきた女の子だから、その分不器用な所もあるんだ。と思っておく。
向こうはと言うと、左手で根本を軽くおさえて右手でゆっくりと包皮を上下させる。
自分の手とは温度も柔らかさも何もかも違う、里香の手のひらに包まれた僕のペニスはピクピクと悦んだ。
里香に触られているという事実だけで、凄く気持ちよくなってきたけれど愛撫自体はそれほど上手くは無い。
僕の反応を見ながら、なんとか試行錯誤でやっているという感じだ。
里香の顔には段々、不安そうで不機嫌そうな感じが広がり、僕は助け船を出さなくてはならなくなった。
「えっと、里香……」
僕のペニスを握ったまま、里香は聞き返してきた。
「なに?」
「そのさ……もう少し早くしてくれるといいんだけど……」
僕にケチをつけられたのだから、てっきり里香は怒るのかと思っていた。
「わ、わかったわよ……」
しかし里香は、少し不満はあるけれど頼みは聞いてあげるという態度で返事をしただけだ。
おかしいな?里香ってこんなに聞き分けがいい性格だっけ?
「このくらいでいい……?」
里香の手さばきは早くなり、丁度いいくらいに気持ちよくなってきた。
「……っ」
軽くペニスに爪を立てたり、力の入れ方にアクセントを付けた里香の愛撫に僕の口から声が漏れる。
自分でするのなら色々なタイミングがわかってしまうけど、そこが里香にしてもらう時との違いだ。
「あ、裕一……気持ちいいの?」
「うん……」
僕のその返事を聞いた里香は、少し嬉しそうな顔になる。
「そっか……じゃあ‥‥もっと強くしてあげるね?」
里香の口元は緩みつつ、ペニスを愛撫する両手の力が強くなった。
しっかりと包皮を下までめくって、上まで戻す動作を素早く繰り返す。
何も唾液やローションのようなものが塗られていないので、
それだけに乾いた固い快感が僕のペニスを犯していく。
里香は僕のペニスを時に優しく、時に痛いまでに愛撫してくれる。
何度か浅く包皮を扱いたかと思えば、一回だけ深く扱いてくれたりした。
亀頭が乾いた包皮と擦れて上下するたびに、里香が愛おしくなった。
よく考えれば、自分でするのと実はそんなに変わらない動作なのに
里香にされるだけでなんでこんなに気持ちいいんだろう?
僕がその快感に夢中になりつつあると、里香が少し驚いた様子で声を上げた。
「あっ……ここ、ぬれてきた」
えっ?まさか里香の方が……?
「……裕一、気持ちいいんだね?」
里香の視線の先を見ると本当の意味がわかった。
「あ、うん……」
僕のペニスの先端から透明な先走りが水玉のように、
じんわりとにじみ出して潤滑液となっているのだ。
今まで乾いていたペニスがどんどん溢れてくる先走りで濡れ始め、
それが里香の上下運動でペニスのそこかしこに擦り込まれて快感が更に高まる。
「里香……う、上手いね……」
「……ありがと」
ちょっと的はずれな事を考えていた自分が恥ずかしくなったけれど、
自分の腰の奥に現れてきた射精の予兆に、そんな考えはあっさり押し流されてしまった。
「りかぁっ……俺、もうそろそろかもっ……」
僕のその言葉を聞いた里香は、一層上下運動を早めながらこう言った。
ギュッギュッと、まるで膣の中のように里香の手が僕のペニスを締め上げる。
「裕一……出してっ、いいよっ!」
里香の顔のすぐ近くにある僕のビキビキになったペニスが、
激しく手で扱かれて小さな水音がリズミカルに響く。
そして僕は、絶頂を迎えた。
「ううっ………!」
ペニスの根本から頭にかけて自慰とはかなり違う、優しい快感が広がっていく。
それと同時に、僕の亀頭の鈴口から白い液体が里香の顔に向かって吐き出される。
ビュクッ、ビュクッ、ビュクッ……!
背徳感と嬉しさが入り交じった快感の強さに、
思わず僕は目を瞑ってしまい、次に目を開けて視界に入ってきたのは、
前髪から顔にかけて、白く粘ついた精液にまみれた里香の顔だった。
里香も精液が入らないように目を瞑っていて、今は目を片方閉じていた。
しかし、それ以外の部分は文字通り精液まみれだ。
僕の白く濁った精液は、里香の黒くて艶々した髪の毛にこびりつき、
白い陶器のような顔の肌に模様を描いていた。
白濁した僕の精液が織りなすコントラストがとても美しく、いやらしく思えた。
辺りには、僕の精液の生臭い匂いさえしていた。
そんな目にあったのに里香は、どこか恍惚した表情で僕にこう言った。
「ゆういち……いっぱい出したねぇ……?」
「………」
その妖艶さに、僕は返す言葉を一瞬失った。
里香は顔についた僕の精液を、懸命に舌と手を使って舐めとりながら言葉を続けた。
「ぴちゅっ……ちゅっ……ちゅぱっ……
 やっぱり……臭いし、ねばねばしてるし苦いし……
 ……髪の毛に匂いついちゃったら、裕一のせいだよ?」
素っ気ない言葉と裏腹に里香のの表情や口調には、
僕に気持ちよくなってもらえて嬉しいという里香の本音がありありと見て取れた。
それに、里香が乗り気じゃないなら顔射もさせてくれないだろうし、
僕の精液を舐めて綺麗にしてくれるなんて事は無いだろう。
「だったら、ティッシュにでも出させればいいだろ?」
僕が里香の気持ちを推し量るつもりでそんな事を言うと、里香は少しだけ拗ねてみせた。
「あー…‥私がせっかくしてあげたのに……そういう事言うの?」
「ご、ごめん」
「わかればいいのよ。じゃあ、ここも綺麗にしないとね?」
里香はそう言い終わるのと同時に、力なくうなだれた僕のペニスの亀頭の裏筋に舌を這わせていた。
里香の舌先と僕の亀頭の裏筋が触れあって、水音がたった。
「ぴちゅっ……うーん、よごれてるわねぇ……」
「え、里香……?」
白い残滓に汚れたペニスを、里香はまるで甘いアイスキャディーでも
味わうかのように丁寧に舌で舐めあげて綺麗にしていく。
「ぴちゅ……ちゅ‥‥ちゅるっ……」
僕のペニスを自らの舌を使って掃除する里香に、僕は面食らってしまう。
その顔が、かなり幸せそうに見えてしまったからだ。
「んっ……ちゅぱっ、ちゅぱっ……ちゅ……」
おまけに里香は急に僕のペニスを中程まで咥えて、口で楽しませてくれた。
「あむっ……! ずっ……ちゃぴっ‥‥ちゅっ…くちゃっ……ちゅぷっ」
次第に里香の口の愛撫は激しく、深く、巧みになり、
まるで僕のペニスを食べ物か何かのように執拗についばみはじめた。
「はむっ……!……んちゅ……じゅぴっ……!」
「り、里香……そこまでしなくても俺はもういいよ……」
里香の行動力の強さに驚いた僕が尻込みしてしまうと、里香から容赦ないおしおきを喰らった。
口にペニスを咥えているせいで言葉は聞き取りづらいが、少し拗ねてしまったようだ。
「ゆういひ……なんでわらひのすゆことをいやがるのよっ?
 こうひちゃうんだからっ……」
かりっ
「いっつぅ……!」
里香が少しだけ力を込めて、僕の亀頭を噛んできた。
里香に与えられた急所の鋭い痛みは、背徳感を伴って快感にもなる。
同時に、里香に対する愛おしさが自然にこみあげてきて、
再び僕のペニスがムクムクッと里香の口の中で元気を取り戻した。
「ちゅ、ちゅる……んっ……ゆういひのまた固くなっへきた……」
里香はそう言うと、唾液で糸を引く僕のペニスを口の外に出して、
目の前にそそり立つ肉棒にふぅぅっと息を吹きかけた。
その熱い息のせいで、ビクッと凶暴にそそりたったペニスが跳ねる。
ビクッ!
「うっ……!」
「うわ……グロい位にギンギンなのね……一回だしたのに……」
こんなにギンギンにさせた張本人も驚いている位だ。
このまま口でもう一回出させて欲しかったけれど、それじゃあ本番の楽しみが無くなってしまう。、
里香もそれじゃあ満足しないだろうから、余計に意味がない。
「………」
「………」
僕と里香の間に、お互いを求めているけど躊躇してしまう、初々しい間が出来てしまう。
こういう時だから、僕は里香を押し倒したくなる欲望を抑えて里香をちゃんと求めた。
「り、里香……その、さ……」
僕の言葉の意味がわかった里香は、
何も言わずに僕の肩を引き寄せながらベッドの上に仰向けになった―――
――――僕は無防備な里香に上から覆い被さる形になって、拙い愛撫を始めた。
今この時だけ、あんなわがままで可愛い里香をベッドの上で僕は好きに出来る。
と言っても僕はあんまりヒドい事は出来ないし、とてもする気にすらなれない。
里香の体温が、息づかいが、温かい身体が目の前にあって、
それと繋がる事が出来るだけで、僕にはこれ以上の幸せはない。
だから、一緒に気持ちよくなろうな。里香?
……里香の弱点の一つである耳朶を舐めてやると、僕の顔の直ぐ近くで里香が喘いだ。
「んっ……!」
里香の吐く甘く熱い息が僕の首筋に当たり、僕を昂ぶらせていく。
そのままやわらかい二つの耳朶の感覚を、舌で弾いたり甘噛みして愉しんでいる内に
里香の表情がどんどんトロンとしてきた事に気が付いた。心なしか吐く息も昂ぶっているように思える。
そんな事が少し嬉しい僕は調子に乗り、急にパジャマ越しに里香の胸を揉んでしまった。
ぐにぐにぃっと、里香の小さな双丘が僕の手の中で形を変える。
「んっんっ……!!」
僕の指の動きが、今の里香を支配しているような錯覚を覚えてしまう。
僕の手に丁度良い位の里香の胸を弄り回し、程良い弾力性を愉しんだ。
少し僕は調子に乗ってしまって、里香の胸に二つずつある乳首をギュッと摘み上げてしまった。
「ふぁぁ……っ!」
僕が乳首を摘み上げた事で、里香は目を瞑って身体を少しだけ震わせながら声を漏らした。
どこか、辛そうな表情をしているようにも見える。
「あ……」
僕の口から、『またやってしまった……』という感じの声が漏れると、里香は顔を上げた。
僕の顔をじいっと見て、少し不満で恥ずかしいという様子でこう言ってきた。
「‥‥裕一、そんな風に男の子がビクついてたら‥‥私だって不安になるじゃないの……」
「ごめん……も、もう少し弱くするから……」
そこでまた僕が弱腰に謝ったのが悪かったようだ。
「駄目! ……そんなんじゃなくて、もう少しちゃんとして欲しいのよ……」
要はもっと堂々として、お互いが満足するように事に臨んでほしいらしい。
いや、それが出来れば苦労はないんだろうけどさ……
あんまり無理なことをさせる訳にもいかないのが辛い。
「……で、でもさ、里香が痛がったりするんじゃないかって――」
僕がそこまで言うと、里香は叱るような口調で遮ってこう返してきた。
「……裕一は、確かに不器用で要領も悪いし鈍いけど……」
こんな時でも結構ずばずばと言うのが、里香なのだ。
「……私は、裕一が私にする事は信じてるんだよ……?」
「里香……」
里香がこんなに僕の事を好きでいてくれるんだったら、我慢しろという方が無理だ。
僕は目の前の里香がとても愛おしくなって、ぎゅっと抱きしめてしまっていた。
「あっ……」
里香は急に僕に抱きしめられて驚き、少しだけ身体を強張らせたが、
すぐに同じくらいの力で僕の身体を抱き返してきてくれた。
少しの間の抱擁が終わると、里香が僕の顔を切なげに見つめてきた。
勃起しきった股間がひどく疼いて、暴れる。
僕はもう何も言わずに、里香の下半身を纏う衣類を丁寧に脱がした。
上は脱がさないで欲しいというのは、里香のお願いだから。
上半身はしっかりとパジャマを着ているのに、
下半身は靴下だけおかしなという姿が僕を昂ぶらせた。
つい口から彼女の姿を褒める言葉が出そうになるけど、多分怒られるから我慢しておいた。
里香はというと顔を赤くして目を瞑っていて、僕に事を任せていてくれた。
僕は心を落ち着けて、まだ今日は一度たりとも触れていない里香の秘部に右手を進める。
そっと、精密に作られた模型を弄るように。美しい草花を愛でるように。
パジャマの裾に僕の右手の甲がさわさわと当たり、そして指先が里香の秘部に触れた。
本当に柔らかい。
くちゅっ……
秘裂から湧き出た蜜が、僕の指や恥毛と絡んで淫らな水音を響かせる。
里香の口からは甘い息が漏れる。
「ぁっ……んっ……」
里香のそこはもう、熱く濡れそぼっていて直ぐにでも僕を受け入れられそうだった。
試しに右手の指を徐々に潜り込ませようとする。
けれどその時、廊下から足音が近づいてくるのが聞こえた。
トン‥‥トン‥‥トン‥‥
同時に、この病室にまで聞こえるような必要以上に大きな溜め息も。
「ふーーうっぅぅ〜〜……‥‥」
その疲れた女の人の声には聞き覚えがあった。背筋が冷たくなる。
夜勤で疲れている亜希子さんが身体を伸ばしながら歩いているのがわかった。
僕と里香がこんな事をしているのに、何もすぐ近くを歩かなくてもいいだろうと怒りたくなったが、
その怒りよりもこの現場を見られたらとてつもなく困るという焦燥感と恐怖が遙かに上回った。
僕の頭の中で警報が鳴り響いたような気がした。
「まずいよ里香!」
「えっ?」
「と、とにかく布団かぶって隠れないとっ……」
僕は事態をわかりきっていない里香に説明する間もなく、
慌てて里香にも一緒に布団をかぶせて気配と音を消した。
病院のものらしい布団の匂いと、里香そのもの匂いが僕の鼻をくすぐった。
こうすれば亜希子さんに、僕が里香の部屋にいる事を少しでも気付かれずに済むかも知れない。
布団の中は暗くて何も見えないのだが、外から見たらベッドの上には
僕と里香の身体をなぞった形の布団がモッコリとしているだろう。
「ふぅ……これでなんとかごまかせ――」
とりあえずのカモフラージュをして僕は一安心してしまったが、
里香は何が起こっているのかわからず、いつもの調子で僕を怒鳴りつける。
「一体なんなのよ!?」
まぁ、せっかくのムードがぶちこわしになったという怒りも込められていたんだろう。
里香が廊下に聞こえてしまいそうな声でそう言い、暴れようとしてしまったので、
僕は更に慌てて里香の口を右手で塞ぎ、身体を少しおさえた。
「んっ……!!」
「ごめん、でも外に亜希子さんがいるんだよっ このまま通り過ぎるまで静かにしてないと……」
早口で言ったが里香には伝わったようで、怒りを収めてすぐに静かにしてくれた。
けれど、危険は去ったわけではない。
トン……トン……
嫌な考えが当たって、僕が里香と布団の中で息を潜めている間にも、
亜希子さんの足音は里香の病室の周りに響いていた。
「………」
「………」
亜希子さんの足音だけが外で響いている中、
僕は今下半身素っ裸の里香と、狭い布団の中で密着してしまっている事に気が付いた。
さっき里香が暴れようとしたのを止めてしまったせいで、偶然にもお互いの身体がいやらしく絡んでしまい、
しかも僕の右手は里香のおなかの辺りをパジャマ越しに押さえてしまっている。
その下に手を這わせば、そこには里香の秘部が間違いなくある。
顔と頭の温度が、一気にモワッと上昇するのを感じた。
亜希子さんにバレてはいけないというスリルと、
亜希子さんにバレたらどうしようという背徳感が絡み合って、僕の頭の中を蛇のようにうねっていた。
これだと自分が里香に何をしてしまうかわからないから、
何とか邪念を晴らそうと自身の性欲に抵抗して今度は里香の顔の方を見て話しかけてみる。
「……まだいるよね、亜希子さん」
「んぅっ……は、はやく行ってよ谷崎さん……」
まぁなんというか仕方がないのか、里香もこんな際どい状況に置かれて興奮してしまっているようだ。
「っ……はぁっ………」
例え顔が見えなくても、上気した里香の熱っぽい息が僕を確実に煽り立ててしまう。
本当は今すぐ里香の秘裂に右手の指を入れてグチュグチュとかきまわしたい。
気の向くままに里香と気持ちよくなりたい。
多分、里香もそれを望んでいるのだろうと思うと尚更だ。
「ふぁぁっ………」
不意に、里香が腰を切なげにクイッと動かして喘ぎ声を漏らした。
考えれば、亜希子さんが廊下を歩いていなければ本来行われた筈の前戯を
ずっとお預けにされた形だから、ある意味僕よりもつらいだろう。
トン……トン……
亜希子さんの足音が、僕達の心の中のせめぎ合いを更に煽っていく。
それでも、僕はなんとか気を紛らわそうと里香に話しかける。
「な、なんで……亜希子さんはこんな時間にうろついてるんだろうな?」
「うん…… ……っ、んぅ………」
そして、里香の小さい身体の温もりと、どこか物欲しそうに身体をよじらせる仕草が僕に間違いを犯させた。
気が付くと僕は、布団が作る暗闇の中から首だけを外に出し、
同じように布団の外に出した里香の唇を容赦なく奪っていた。
驚いた里香が反射的に声を漏らさないように、しっかりと舌を絡めて。
「んぅっ……んっ〜〜‥‥」
里香は少しだけでも抵抗しようとするが、口を塞がれているので声は出せないし、
すぐ近くの廊下には亜希子さんがいるせいで下手に気配を出すことも出来ない。
それどころか、僕の舌が里香の口の中をかきまわしていくと、
里香さえもこの変態的な行為の虜になってしまったらしい。
その顔が羞恥と、快感にみるみる赤く染まっていったのだ。
僕の舌を抜かれ、半開きになった里香の口から溜め息と唾液が漏れ、僕の名を呼んだ。
「ぁっ……ゆ、ゆういちぃ……」
そんな里香に欲情を掻き立てられた僕は、里香の唇から名残惜しくも唇を離した。
本人は否定するかも知れないが、明らかに嫌がっているようには思えない。
そして、まだまだこのアブノーマルな行為を愉しみたい僕は、
右手の指を里香の秘部に布団の中でそっと這わせた。
その予想外の感覚に、里香は小さい嬌声を上げた。
「ひゃんっ‥‥!」
妙に初々しい反応の里香を見ていてると、僕の男の本性が目覚め始めた。
トン……トン……
ドアと壁を隔てた廊下には亜希子さんがいて、
運が悪ければ里香とナニをしているかがバレてしまうというスリルに、僕はすっかり取り憑かれていた。
まずは、右手の指で里香の秘部の濡れ具合を確かめる。
ちゃっ……くちゅっ……
「やっ……っ」
その後、僕は間髪を入れず里香の秘裂に右手の指を侵入させていた。
ぐちゅっ……
僕の指と里香の柔らかすぎる肉が愛液で絡み、淫らな水音がかすかに発せられた。
「ふわぁ……っ!」
里香が堪えきれずに小さな声を上げるが、僕は気にとめる事が出来ずに、
愛液で濡れそぼった秘裂に右手の人差し指と中指を激しく出入りさせた。
親指で里香の秘部を押さえ、手首をクイックイッと容赦なく動かして突き入れる。
くちゅくちゅくちゅっ!
ひどく柔らかいそこは、羞恥心で里香が昂ぶっているせいかいつにも増して僕の指に絡み付き、
僕と里香の耳に嫌という程淫らな水音を聞かせてくれた。
ふと僕は、温かく濡れた指がふやけてしまうんじゃないかと思う。
「やっ‥‥やだぁ……こんなに音してる……」
里香の口から甘さを帯びたとまどいの声が漏れたのが、更に僕を興奮させた。
僕は指をくちゅくちゅと動かし続けながら、里香の顔を見てこう言ってやった。
自分でも、悪ノリしすぎかな? 後で怒られるかな? という思いはある。
「里香……どうする? イクの?」
里香はイヤイヤをするような素振りを見せて、僕に必死に懇願してきた。
「だ、だめっ、今は駄目ぇっ‥‥!」
きっと里香は、この光景を亜希子さんに見られたのを想像してしまったんだろう。
全くなんというか、ほんとに可愛い女の子だ。
「何言ってるんだよ。
 里香だって、亜希子さんが廊下にいるせいで余計興奮してるんだろ?
 スリルがある方がいいもんな」
意地悪な僕の言葉に里香の身体がくねり、その温度を増した気がした。
「そ、そんなことな‥‥!、ひゃっ‥‥!」
僕に言葉責めされる度、里香の白い顔に朱が増していく。
「こんなに濡れてるのに、今更恥ずかしいも何もないって。
 ……あ、それとも亜希子さんに見られたいの?」
「‥‥ば、馬鹿ぁっ! ひぁんぅっ‥‥!!」
そんな会話をしている時に限って、また亜希子さんの足音が大きく聞こえた。
トン‥‥トン‥‥
「谷崎さん‥‥!?」
この病室のすぐ前を歩いているんだろうか?
多少心配にもなったが、もほやその足音も僕と里香を昂ぶらせる材料でしかなかった。
「ほら、気にしてないで早くイった方がいいよ?」
僕は里香の反応を素直に愉しみながら、指を更に動かして里香を達せさせようとする。
絡み付いてくる肉襞を指先で抉るように、指の角度を細かく変えて責め立てる。
ぐちゅぐちゅっ!
「ふわぁっ……! ば、ばれたらどうするのよぉ‥‥」
「大きい声出さなければ気付かれないからさ、イッちゃえば?」
僕は里香にそう言うと、左手で里香のクリトリスの包皮を剥く。
「ひぁっ‥‥!! や、やだよぉっ‥‥!!」
そして親指と人差し指を使い里香が痛がらない程度の力で、その肉芽を摘み上げる。
中指では、里香の秘裂を執拗に突き上げてかき回しながらだ。
ぐちょぐちょぐちょっ!
「だ、駄目ぇっ‥‥あ、、あ、、、、っ!」
里香は遂に、激しい背徳感と羞恥心に襲われながら、それすら快感に変えしまい、
目を瞑り声が漏れないように唇を必死に噛みしめながら達した。
「ひゃぁぁぁぅぅぅっ……………っ〜〜〜〜!」
長くか細い里香の嬌声が僕の耳元で響く。
布団に収まった里香の身体が余韻でプルプルと震えているのも、妙に可愛く感じてしまう。
里香はなんとか声を出さずに絶頂の快感に耐えたが、
後はまるで眠った子猫のようにクッタリと脱力してしまった。
今は、はっきりとしない意識のまま息を整えている。
これ以上連続で続けたら身体が危ないだろうし、
そうでなくても、今の里香は放心状態で受け答えが出来なさそうだ。
「ぁ……はあ‥‥はぁ‥‥」
そんな里香を見ていると、亜希子さんの足音が遠ざかっていくのがわかった――――
――――亜希子さんの足音が遠ざかっていってから少し時間が経っていた。
すぐ近くに里香の温もりを感じながら、僕は布団の中で精神的な落ち着きを取り戻している。
里香はというと十分に呼吸を整えていて、お互いの息がかかるような距離に寝ていた。
どこか気まずいような恥ずかしいような沈黙が流れていて、僕はちらりと里香の顔を窺った。
すると、里香は僕に向かって口を開いてきた。
伏し目がちで恥ずかしそうに、ポツリとこう言った。
「ばか……」
その短くてストレートな言葉は、僕に対する怒りや戒めというより、
むしろ彼女自身の恥ずかしさを誤魔化しているような感じがする。
いつも里香の尻に敷かれている僕の口から反射的に出てくる言葉はというと、これだ。
「ごめんなさい」
確かに、あんな状況であれだけ感じてしまったのだから、プライドの高い里香が恥ずかしいと思わない訳がない。
そんな気持ちの行き場が無くて、僕に当たっているだけだ。
それでも、僕を本の角で殴ったりしないのは、やっぱり里香が僕のことを好きだからなのだろう。
「……ほんっとに申し訳ないって思ってるの? 
 エッチな事考えてる裕一なんて、全然信用出来ないんだからね……」
こういう事を言われると、全く面目が立たないのが僕だ。
「今まで、そういう事で何回怒らされたかも覚えてないわよ」
内訳を少し数えてみると、今は亡き戎崎コレクションの事を始め色々あったのが更に情けない。
「す、すみません……」
しかし、里香は僕をそんな調子でたしなめながらも、熱っぽい眼差しを注いでいるのがわかる。
僕と話しているせいで、先ほどの自分の痴態を思いだしてしまったんだろう、
亜希子さんに気付かれてしまいそうだという背徳感の中、僕の指と言葉に激しく責め立てられて、
まともに声すら出せずに達してしまったのだ。
そんな里香に意地を張る気は起きなくて、僕はすっぱりと自分の非を認めた。
「ごめん‥‥ほんとに謝るよ。 これからはもし里香が嫌がってたら、俺何もしないようにする」
「……当たり前でしょ? エッチな事にガッつくなんて、そもそも嫌われて当然じゃない!
 大事にしてあげないと、女の子に嫌われるのわからないの?
 それに、もし気付かれてたら、裕一も私もどうなってたと思ってるのよ?」
「う………」
痛いところというか、僕がワル乗りしてしまった原因を突かれた。
もちろん里香もああいう状況で興奮していたけど、里香が怒っているだいたいの原因は僕にある。
まぁ、そうでなくとも里香は多かれ少なかれ僕に当たる事が多いのだが。
「だいたい、裕一はいつもいつも―――」
それから僕に展開されたのは実に里香らしい正直な意見で、たとえ両想いの仲でも、
つくづく僕みたいなのは里香には敵わないんだなと思ってしまう。
しかし、捲し立てている里香の顔には赤みが差してきて、
例によって裸のままの下半身が切なそうな動きをしている。
そして、僕の股間には血液が再び激しい熱を帯びて集まるのを感じた。
要は、僕も里香も若くて、まだ満足しきっていないという事だ。
「―――まあ、私だって……その‥‥裕一がしたい事ならさせてあげたいけど……」
里香は赤らめた顔で、妥協してあげてるのよ?という感じで小さくそう言い、僕に少し近づいてきた。
僕をもっと求めて、気持ちよくなりたいけどそれには戸惑いを感じてしまっている。
恋する女の子らしく、里香の気持ちは微妙なんだろう。
そんな里香が一層可愛く感じられて、僕は横向きに寝たまま目の前の里香の肩をスッと抱き寄せてこう言った。
「俺は、里香の機嫌を直したいんだけど、どうすればいいかな?」
きっと里香は僕のことを少し意地悪に感じただろう。
僕が内心ニヤニヤしていると、里香が不意にこう言った。
「じゃ……キス、してよ」
「え‥‥?」
その口調が割とあっさりしていて、当然のことだという語気が意外だった。
さっきの僕は少し意地悪かも知れないが、今の里香はかわいげのある本物の意地悪だった。
「そうしないと、機嫌直してあげないもん」
里香は目を瞑ると、僕に向かって唇を求めてくる。
「わ、わかったよ」
逆に僕の方が戸惑ってしまいそうになり、動揺を気取られないようにしながら目を瞑り、
里香の小さい唇に自分の唇をそっと重ねた。
ちゅっ‥‥
柔らかい唇だけのキスから、少しだけ舌を絡めた後は口を離す。
お互いから少しでも多く快感を貪るタイプのキスではなく、
子供のお遊びのようなキスだが、それもそれで悪くはないと思う。
僕は、唇を離したら里香に何か話しかけようとしていたが、今度は里香に誘われる番だった。
臨戦態勢のペニスも、僕の心もビクンと震える出来事だった。
里香は急に優しい目つきになって、僕のペニスを右手で優しく掴んできて、それで口を開く。
「裕一……しよっか?」
とても穏やかな、淀みのない感情が込められている言葉に感じられた。
もう、僕と里香の間にそれ以上の言葉はいらなかった。
僕は里香を更にギュッと抱き寄せながら、どういう体位でするのかをやましくも考えていた――――
―――多田コレクションや自分のコレクションのお陰で、僕はある程度里香をリードする事が出来た。
最初に里香を横向きに寝かせて、次に僕はその正面にやはり横向きに寝る。
まぁ、俗に言う前側位とかいうものにあたる体位をつくった。
身体を重ねないで済むから男女ともに無理がなく、お互いの顔を見ることもできる悪くない体位だ。
挿入がさほど深くならないのが欠点らしいが、そんなには気にならない問題だ。
……それで、今僕の目の前にいる里香は下半身に何も纏っていなくて、
かろうじて彼女の左手で秘部が隠されているに過ぎない。
その白い手を秘部から剥がせば、あの忘れたくとも忘れられない、
薄めの恥毛がつつましく生えた里香の秘裂と恥丘が僕の目に晒されるだろう。
その部分も、この時だけは僕を受け入れるためだけに使われる。
ちなみに、里香の右手の方はというと、女の子らしい手つきで胸元のパジャマの生地をきゅっと掴んでいる。
里香の着ている質素極まりないなパジャマの柄は、
少女趣味的な幼さとチラリズムによる危なげな色っぽさを併せて醸し出しているようにさえ見える。
本当に白い二本の太ももはチラチラと上パジャマからの裾から見え隠れし、
そこからずっと下まで細く鮮やかなラインを惜しげもなく描いている。
そんな身体全体から優しく流れてくる里香の体臭も、ずっと嗅いでいたいほどだ。
……そんな風に美しい里香を見つめて自分の世界に入っていると、
当の里香を不愉快にしたらしく睨まれてしまった。
それはそうか、女の子の身体を見て我を忘れるなんて言語道断だろう。特に里香には。
やはり、里香はジトッとした目つきのまま僕にこう言った。
「……裕一、あんまりボーッとしてないでよ?」
僕は少し目を逸らしながら言い訳をする。
「ごめん、ちょっと考え事してて………」
我ながらアホな言い訳だと思う。当然それは里香に見抜かれたらしい。
僕をたしなめるような口調で里香は切り返す。
「ふーん……私の身体を見ながらでもしちゃうような考え事って、どんな事なの?」
「が、学校のことだよ。や、ほら、テストの範囲とかさ……」
横向きになった里香の顔の双眸が、うさんくさそうに細まる。
「……嘘ばっかり。 まぁ、裕一のことだから何考えてるのかなんてわかりますけど」
里香は、裕一の事なんてお見通しと言わんばかりの口調と目つきでそう言った。
こういう状況を、恥の上塗りとか汚名挽回というのだろうか?
僕は思わずシュンとなって謝った。
「…………ボーッとしてて、ご、ごめんなしゃい……」
「……裕一……。 もういいから、いいから………」
急になぜか、里香は許すような、それでいてどこか物欲しそうな声をかけてきた。
語調が変わり始めたので、僕は嬉しくも不思議に思いながら聞いていた。
すると里香の右手が僕の髪に伸び、ささくれ一つない手のひらで僕の頭を撫でる。
何度もされたことのある仕草だけに、その手つきがまさに愛撫そのものだというのがわかった。
「里香……ありがと」
自分のするべき事を思いだした僕は小さくそう言うと、里香はスッと右手を僕の頭から離す。
そして、僕はやっと里香への愛撫にとりかかった。
まず順序通りに両胸に手のひらを一つずつあてがい、少しずつ揉んでいく。
サイズは大きくないけれど、ふにふにとしていて手触りはいい。
「あっ………」
里香の口から声が漏れると、僕は強弱を付けて揉み続ける。
僕は手の平にすっぽりと収まった里香の小さい胸の感触を愉しんだ。
「ふぁぅ……ぁ……」
パジャマ越しだからそんなに生々しい感触ではないが、
里香にとってみれば、パジャマ越しだからこその中途半端な快感に責められているんだろうか。
ただただ乱暴にされるよりも、色々と焦らされた方が気持ちいいのは確かな筈だ。
そんな事を考えながら、乳首がある場所に爪をムニッと立てた。
頼りないほど柔らかい乳首が、僕の爪に潰される。
すると、里香の身体がその瞬間ヒクッと反応する。
「んっ……! ……裕一、あ、あんまり痛くしないで……」
里香が切なげな声と共に僕に訴えかけてきた。
僕は申し訳なくなり、指から力を抜いた。
「痛かった……かな?」
「うん……」
また申し訳なくなって、僕はもう少し力を抜いて愛撫を再開した。
「この位……かな?」
そう聞くと、里香は満足そうに頷く。
ふにふに‥‥ふにふに‥‥
そんな効果音がしそうな胸への愛撫をしながら、気まぐれで里香の唇を吸ってみた。
ちゅっ……
お互いの舌が触れる事もない気分だけのキスの後、里香が顔を赤らめてこう言う。
「その……わ、私……そろそろ……」
普段の強気な里香に比べたら、しおらしくてへりくだり過ぎていてあまりにも可愛かった。
ちょっと事が進むのが早い気もするが、里香も我慢していたんだろう。
「わかった……無理しないでくれよ?」
コクンと、里香が小さく頷く。
……もう少し里香の敏感そうな小さい胸を愛撫していたかったけれど、
里香にこう頼まれてしまったら、僕も断る理由は無かった。
まず秘部を覆っている里香の左手の手首を軽く掴み、そこからずらす。
僕の目に晒された里香の秘裂は、もうしっとりと濡れているのが見るだけでわかった。
これならもう触る必要もないなと思いつつ、僕は自分のペニスの先端をそこにピトッと当てた。
すると、里香はおもむろに右足を持ちあげて僕の尻に回してきた。
なるほど、こうすればスムーズに挿入する事が出来るだろう。
「ふぅっ……」
甘い息を漏らす里香と前側位で抱き合いつつ、僕はペニスを里香の割れ目の中に埋めていった。
ずずっ……
お互いリラックスしているお陰で、程良い締め付けが亀頭から根本にかけて広がる。
里香も痛い思いはしていないらしく、目を細めたり瞑ったりしながら感じてくれていた。
甘い溜め息がまた一つ、里香の口から漏れた。
「はわぁ……っ」
ずっ‥‥ず……
僕のペニスは少しずつ里香の膣内を進んでいき、温かく絡んできた肉襞の感覚を愉しんだ。
また、挿入が深くなる度に里香の右足が僕の腰を彼女に引き寄せ
正常位とはまた違った軽めの、偏った密着感をもたらしてくれた。
やがて、ペニスは里香の胎内に収まりきったらしく、温かい密着感に包まれた。
そうなれば、後はする事は一つしかない。
「う、動くよ?」
「うん……。 裕一、動いて」
里香に促されて、僕は少しずつ腰を動かし始めた。
ちゅっ‥‥ずちゃっ‥‥
僕のペニスが浅く里香の胎内を突く度に、里香の顔が赤くなるのがわかった。
僕が今めちゃくちゃ幸せなように、里香も幸せなんだろうか?
くちゅっ……ずっ……
あまり身体に負担をかけない体位のおかげでお互い話せる余裕はあったから、
僕はこう里香に冗談交じりに聞いてみた。
「……気持ちいい?」
僕と目があってしまった里香は、少し目をそらしながら話す。
「やめてよ……は、恥ずかしいじゃない……」
「そっか‥‥里香が気持ちよければ俺はいいんだけどね」
そう言って、今度は少し腰を深く突き上げてやった。
可愛い声を漏らし、里香は目を瞑る。
「ひぁ……」
反応から察するに、里香はもう大分出来上がってきたようなのでフィニッシュに向かってもいいかな?
と考えつつ腰を深く突こうとした時、アクシデントというか災難は突然やってきてしまった。
トン‥‥トン……トン‥‥トン……
「……?」
里香の病室から壁一枚隔てた廊下の、医局の方向から人の足音が聞こえてきたのだ。
無防備な僕達を脅かすように、徐々に近づいてくる。
急に聞こえた足音に、僕と里香は声も出さずに驚きで固まってしまった。
もちろん、繋がったままで。
静寂の中で僕と里香は息を殺し、足音の主を聴力で探ろうとする。
どうやら足音の主は二人いるらしく、二人分の足音と喋り声が聞こえる。
しかも悪いことに、その片方は僕が良く知っている人物だ。
「ったく……なんでこの夜中にナースコールで呼び出されないといけないんだ……
 しかも……あんたまでついてくんのはどうしてさ? 
 そういう独断は色々といけないんじゃないんですかぁ、せんせい?」
若い女の人の声……亜希子さんが、並んで歩いているもう一人に話しかけた。
話しかけられた方は、やれやれという調子で返す。やはり良く知っているあの男の声だ。
「……疲れてるお前が、どこかミスッたら困るからな。 まぁ、いつもだって怪しいもんだが」
男の声……夏目に言われてムッとしたのは、先に話しかけた亜希子さんだった。
「患者さんはかなり気持ち悪いって言ってましたけど、声ははっきりとしてましたから、
 多分なつめせんせーの出番はありませんよ。 つーか帰れ」
聞こえる声が徐々に大きくなる理由は、亜希子さんが怒っているのと距離が近づいているのと両方だろう。
「おーこわいね〜…‥ だったら俺は散歩と、看護婦いじりを兼ねてついてきたって事で。
 何かヤバそうだったら俺が処置する」
「処置ったって、あんたは内科医じゃないでしょ……ああもう勝手にしろ……」
そこまでの夏目と亜希子さんの会話を聞いていて、僕はかなり焦ってきた。
なんであの二人が都合良くこの辺に来てるんだとか、
そもそも同じようなシチュエーションがこんなにある訳ないだろうとかそういう感情はすぐに吹っ飛んだ。
二人の目的地がここではないのは幸いだが、二人がヘンな気を起こして
この病室に入って来たらどうしようとよう嫌な予想に、背中に寒気がゾクりと走った。
もうこんな事をしている場合ではない。
何か気配を感じ取られる前に、行為をやめなくてはならない。
「里香……ごめん。 今日はこれで終わりに‥‥」
僕はそう言って里香の秘裂を貫いているペニスを引き抜こうとしたが、腰が動かなかった。
ただ前後運動が起きてペニスが扱かれただけだ。
ずっ……
もう一度引き抜こうとするが、やはり後ろに引けない。
ずち……ゅっ……
トン‥‥トン……トン‥‥
夏目と亜希子さんの足音に急かされながらも、僕はあることに気が付いた。
「え……ちょ、ちょっと里香」
何かおかしいと思ったら、里香の右足が僕の腰を押さえつけている。
これでは、行為を中断することが出来ない訳だ。
僕が驚きながらも彼女の顔を見ると、すっかり色っぽく紅潮していて
小さな口の端からは一筋の唾液が垂れていた。
「裕一…… わたし、もうがまんできないよぉぉ………」
里香は半ば呻くようにそう言うと、腰を振ってきた。
まるでさっき亜希子さんが近くを通った時に、僕が里香を達せさせたような雰囲気を感じた。
僕の口から情けない声が漏れる。
「うっ……」
騎乗位ほどではないものの、肉襞が迫ってくる圧迫した快感に襲われる。
蕩けた顔の里香は続けて僕の腰を右足で引き寄せ、腰を振ってくる。
侵しがたい雰囲気を纏った長い髪の毛が、里香が身体を揺らす度にサラサラと揺れた。
グッチュグッチュ!
「はぁ……ぁっ……ん……ぅっ!」
ペニスに絡み付いてくるような里香の膣からの快感に耐えながら、僕は里香を慌てて止める。
「り、里香駄目だって! もし夏目と亜希子さんに気付かれたら……」
けれど、里香の腰は止まらずにそれどころかもっと快感を求めた。
ぐちゅっぐぢゅっ……
快感に赤く染まった顔の里香は、もはや歯止めが効かない程に昂ぶっていた。
今の彼女の漆黒の瞳には、大量の本を読んで身に付いた知性の代わりに、
危なっかしい艶やかな輝きがギラリと宿っていた。
同じように危なっかしい口調で、里香は僕を求める。
「ふわ‥‥ぁ…… 裕一も、うごいてぇ……」
トン‥‥トン……トン‥‥
夏目と亜希子さんの足音が聞こえても、里香の腰は止まらなかった。
ぐちゅっ……ぐちゅっ……
僕のペニスは不規則に扱かれて、僕自身も我慢の限界に達してしまった。
里香と一緒にギリギリの所で快感を貪りたいという欲求が、理性をやや上回った。
「……動くよ?」
頭の中でカチリという音がしたかと思うと、僕は里香の身体を抱き寄せながら激しく腰を打ち付ける。
水音が結合部から鋭く響く。
ズッチュ、ズッチュ!
「ひゃ……!」
里香が気持ちよさそうな小さい声を出したので、僕はまた話しかけた。
「俺も、もう我慢できないよ……」
「ゆういち……ありがと」
里香はそれだけ恥ずかしげにいうと、僕の腰の動きに合わせて早めに動き始める。
グチュッ……グチュッ……
前側位でやや動きづらいけれど、僕と里香の快感は確実に高まっていく。
僕は里香の胎内の壁をなぞるように腰を大きい動きで振る。
ズゥッ……
「や、そこぉ……いいよお……」
里香は身体をヒクッと少し震わせながらそう言った。
……すぐ近くに夏目と亜希子さんがいるのに、僕は里香と繋がってこんな事をしている。
その事をしっかり認識すると、頭の中がサァッとリトマス試験紙の色が変わるように快感に染まっていった。
背徳感が後から後から迫ってきて、それがほとんど快感に成り代わっていく。
トン‥‥トン‥‥
そんな事を考えているとき、不意に足音が耳に入った。
僕がさっき里香にした言葉責めが、ほとんどそのまま自分に跳ね返ってくる。
……今この病室は外から僕と里香が出している水音が聞こえるんだろうか?
僕と里香の小さい喘ぎ声が聞こえてしまうんだろうか?
そういう気配に気付いた夏目と亜希子さんがこの病室に入ってきて、僕と里香の秘め事を見てしまうんだろうか?
里香が僕以外には絶対に見せない艶めかしい姿を、あの二人に見られてしまうんだろうか?
妄想のような背徳感が身体を灼くようにいくらでも湧いてきて、僕と里香の快感を頂上にまで昇らせていく。
たまらず里香の唇を奪うと、それを絡め取るように里香の舌が絡み付いてきた。
「はむっ……んっ………ぁっ……」
熱っぽい口づけに二人で酔いしれる。
トン‥‥トン‥‥
するとその時、夏目と亜希子さんが病室の前を通っているのだろうか、足音がかなり大きく聞こえた。
その乾いた足音に焚き付けられるように、僕は激しく昂ぶる。
里香の身体を引き寄せ、ベッドがきしむ音と水音が聞こえる位に突き上げる。
「やあぁっ……! ゆ、裕一のがこすれてる……」
グチュッ!グチョッ! キシ‥‥キシ‥‥
お互い変に興奮しているせいか、里香の肉襞は不安定に、けれど強く絡み付いてきた。
けれど、それより気になったのが里香の反応だ。
里香もかなり感じてしまっていて、快感と背徳感に染まった口調で何か言っている。
「やだ、ぁ…… 音出しちゃ、駄目えっ……ひぁわぅっ……!」
里香と僕はもうとっくに、この危険と隣り合わせの行為に嵌りきっていた。
僕は、だったらもうバレるかイくかだという極端な考えに襲われ、こんな事を口走ってしまう。
「里香‥‥やっぱりバレそうなのが、気持ちよくって仕方ない変態なんだ?
 里香のアソコ、すごい締め付けだよ?」
直接的な言葉責めに里香は反論することなく、
首を縦にコクコクと振って僕の問いに同意しながらも絶頂に昇り始めた。
「そう、そうなのっ」
意外な里香の反応に僕は驚きながら、また似たような事を言ってみる。
「じゃ、自分が変態だって認めるんだ?」
里香は涎を垂らしながらもなんとか答える。
里香の中の締め付けがキュンと強くなった気がした。
「へんたいでもいいからっ、もっと、もっとしてぇっ‥‥!」
その言葉を聞いた僕は熱に浮かされたように更に激しく腰を突き上げて、里香を絶頂に押し上げていく。
一突きごとに里香の身体は様々な反応を見せ、やがてそれは押さえられなくなった。
部屋のすぐ前に夏目と亜希子さんがまだいたとしたら、確実にバレてしまう程の水音や喘ぎ声がする。
「わたし、もう、だめぇぇっ……ひゃぁあっ!」
何度目かの突きの後、里香の絶頂が始まったのか、
里香のトロけた胎内に僕のペニスがキュッと締め付けられる。
キュッ…キュゥッ……
さらに断続的な肉襞の締め付けが連鎖していき、間隔が短くなる。
僕は前側位で出来るだけの激しい腰つきで里香の子宮口を突き上げるが
しつこく絡み付いてくる肉襞にペニスが扱かれ、前側位ではお互い動くこともままならなくなる。
夏目と亜希子さんとに気が付かれるかも知れないと思いながら、僕は里香に話しかけた。
「里香‥‥出すよ! だすよっ!」
僕も僕だが、里香ももはや淫乱としか形容しようのない顔と声でわななく。
「ゆういちっ……!! わたし、変になっちゃうよぉぉっ……!!」
最後に僕と里香は最後に身体をしっかり絡ませながら達した。
結合部も全身も、ビクビクと電流を流されたように震える。
僕の尻を押さえている里香の右足にも力が加わっているのがわかる。
そして、美しく乱れた里香の声が、密かに病室に響いた。
「ひゃああああぁぁ‥‥……っ!」
「りか……ぁっ……」
高みに飛ばされる瞬間、僕は夏目と亜希子さんにこの痴態を見られる現場を想像していた。
多分、里香もそうなんだろうと思う。
そう考えていた時、僕と里香の理性はとてつもない快感と背徳感に押し流されていった。
ビュルゥッ、ビュウゥゥッ……!!
僕のペニスの先から里香の身体の奥に熱いモノが躊躇いもなく流し込まれ、
やがてそれは里香の胎内をねばっこく、濃く白く満たしていった。
キュン! キュ〜〜ッ!
乱暴に収縮を繰り返す熱い肉襞に、すっかり精液を搾り取られてしまった。
僕の尻を押さえていた里香の右足が力を失い、僕は腰を後ろに引いてペニスを引き抜いた。
コポッ……
少し切ない感覚なのか、里香は声を小さな声を出した。
「ふわぁっ……」
その後、深い余韻とどっと溜まった疲れのせいでついに意識さえも徐々に飲み込まれていった。
どんどん瞼が重くなる中、やっと覚えているのが
「わたし……おかしくなっちゃっ‥‥た……よ」
という、背徳的な絶頂の余韻にすっかり溶かされた里香の言葉だ。
僕はそのまま、里香と抱き合いながら眠りについてしまう。
もう、夏目と亜希子さんの足音は聞こえなかった―――
―――ちなみに、この夜の一事からしばらくの間、
僕と里香は夏目や亜希子さんに会う度にひどく悶々とした気分になってしまうのだが、
それはまた別の話―――

おわり


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