……激しい前戯を終えた後の僕と里香は、ベッドの上で生まれたままの身体を寄せ合って、しばしの間休憩していた。
身体を触れあわせていると嫌でも感じる、お互いの中でまだくすぶっている熱が、
これから行為が再開されることを暗示していた。
「ふぅ……」
時折、里香が切なげに吐く息には、満足感だけでなく、未だ欲求不満な雰囲気も感じ取れた。
「……里香、もう、だいぶ休めた?」
僕がそう聞くと、里香はこっちを見て、コクンと頷いた。
漆黒を湛えて僕を見つめる里香の双眸には、僕を求める情欲の炎が、確かに灯っていた。
そんな里香の目を見て、僕は思わずドキッとしたのと同時に、また彼女に少しだけ意地悪をしてみたくなった。
次の瞬間、僕はいきなり里香の股間を右手で触ってやった。
僕の指先が、湿って生暖かい里香の秘裂に直接触れる。
すると、グチュリ……という、淫らな水音と、里香の喘ぎ声が部屋に響き渡る。
「ふぁんっ……!」
里香の反応に対して、僕はわざと呆れたようなことを言う。
「うわ、凄いな……今日初めて触ったのに、もうこんなになってるなんて」
更に、里香の秘裂が接している部分のかけ布団に目をやると、
もうそこはすっかり、愛液で染みになってしまっていた。
もちろん、秘部自体も今までの前戯の影響で、生暖かくグッショリと濡れそぼっている。
部屋の温度が低ければ、湯気を立ち上らせそうですらあった。
「こんなに濡らしちゃったら、もういっそ、布団ごと洗濯した方がいいかもなぁ」
僕がわざと困ったような口調をして言うと、
やや冷静になった里香は、秘裂を手で守りながら、恥ずかしそうな口調で返してくる。
「……だから、あたしのことこんな風にしたの……裕一でしょ?」
そんな問いに対して、僕は真っ正面からこう言ってやった。
「あぁ、里香のことをこんな風にしたのは、俺だよ。
 でも、恥ずかしいとかはしたないなんて、ほとんど思ったことないよ」
「……ほとんどってことは、少しはあるってことでしょ」
そう言った里香は、僕に対するせめての抵抗と、素っ気ない仕草でプイッと顔を背けてしまうが、
正直、そんな里香の仕草を楽しむほど、僕の方にも余裕が無くなってきていた。


「まぁ、実を言うと、俺の方ももう限界なんだけど‥‥最近、ご無沙汰だったし」
僕はそう言いながら、血管が浮き出て、ガチガチに勃起したペニスを、少し腰を浮かせて里香に見せつけながら、
「正直……赤ちゃんが大丈夫なら、今すぐしちゃいたいんだけど、
 やっぱり、流石に無理かなぁ?」
……と問いかけた。
すると、里香はやや真面目な顔で少し考えた後に、
「……ホントは、この時期に入ったら、もうしない方が良いんだけど、
 まぁ、赤ちゃんに負担さえかけなければ、一回くらいなら大丈夫じゃないかしら?」
一回だけなら大丈夫、という里香の答えに、僕は素直に嬉しくなった。
「そっか……、俺も一回で良いから、久しぶりに里香としてみたいな」
里香も僕と同じ気持ちだったようで、微笑みながら相づちを打ってくれた。
「うん、あたしも、裕一としたい」
一瞬、熱い視線を絡め合った僕と里香だったが、
問題は、どういう体位でするかということだった。
「すること自体は決めたけどさ……。こういう時は、どういう風にしたらいいんだろうなぁ。
 赤ちゃんに負担をかけたらまずいだろうし……里香は、どうしたいの?」
里香は少しの間、大きなお腹に手を当てて考えてから、穏やかな口調で答えを返した。
「‥‥お腹に負担がかかるのはまずいから、あたしが上になりたいわ」
どうやら、里香が言っているのは、俗に言う騎乗位の形でしたいということだろう。
「なるほど、騎乗位かぁ」
「そうそう、その騎乗位っていうのが、今回は良いと思うの」
思い出してみれば、騎乗位は里香が好きな体位の一つだし、
赤ちゃんのことを考慮しても、下になる僕はともかく、上に跨る里香と彼女のお腹には、ほとんど体重はかからない。
挿入の浅い深いを、里香が自由に調整出来るのも良い。
また、僕からは里香の膨らんだお腹がよく見えるので、
赤ちゃんの存在を感じながらするのに、これ以上相応しい体位は無いだろう。
「うん。じゃあ、それでいこうか」
僕がそう言うと、里香が微笑みながら相づちを打つ。
「わかった」
僕は里香の手を取りながら、身体をベッドに横たえて、まっすぐに仰向けに寝る。
次に里香が、名残惜しそうに僕の手を離すと、大きなお腹を重そうに抱えながら、僕の下半身の辺りにいそいそと移動した。
……騎乗位に備えて仰向けになっている今の僕が、真上を見ると、薄暗い寝室の味気ない天井しか見えない。
しかし、少し首を傾けて斜め前を見ると、
長い髪と大きなお腹を微かに揺らしながら、四つんばいの体勢で僕の腰の辺りに近づく里香が見えた。
そして、里香が目指す先……つまり僕の股間には、血管や筋を浮き立たせた、堂々たる赤黒い男の証が屹立していた。
ソレは別に何も触れていないのにも関わらず、時折ビクン、ビクンと僕の心拍に合わせて震え、
張り出したエラの上にある鈴口からは、涎のように先走りを垂らしていた。
「もう……裕一は、いつもこんなにしてるんだから」
よいしょ、という感じで僕の太股の上辺りに女座りをした里香が、
半ば苦笑しながら僕のペニスを評して言った。
「仕方ないだろ。さっきから、あんなに里香のエロいところ見せられて、それでまだ一回も出してないんだから」
ズッ……と来る感じの、里香と赤ちゃんの重みと温もりを下半身に引き受けながら、僕は正直な気分を話す。
「里香だって……、もうあんまり我慢出来ないんだろ?」
僕は、挿入前に一時休憩という状態に入っていた里香の、期待を隠しきれない顔を見ながら言ってやった。
「うっ……それは、そうだけど……」
前戯での自分の痴態を思い出しているのか、里香にしてはやや珍しく、自分の性的な欲求を肯定した。
そんな里香の様子が可愛くて、僕は彼女に先を促した。
「ならさ、早くしちゃおうよ。この体位は、里香が挿れてくなきゃ始まらないし、
 あんまり長引いたら、赤ちゃんにも悪いと思うんだけどなぁ」
僕が意地悪げにそう言うと、里香はもう何も言わずに、今まで下ろしていた腰を上げ始めた。
里香の秘部が、僕のペニスの亀頭に微かにクチュッと触れる。
次に里香は、目を瞑りながらも、右手で自分の秘裂と僕のペニスを触りながら、
位置を微調整していって、亀頭と秘裂が触れるかどうかという辺りで、一時動きをやめる。
「んっ……こ、ここね‥‥?」
身重な里香の身体では、和式便所を使う時のような、足を大きく広げてしゃがむ姿勢を長い時間維持することは出来ない。
「里香……」
僕がそう言うと、里香は意を決して慎重に、
しかし妊娠していて体重が増している分、勢いよく腰を下ろさざるをえなった。
ズ、ズチュゥゥッ……という、やや重い感じで、里香の秘裂が僕のペニスをまっすぐに飲み込んでいく。
そして、僕のペニスが里香の温もりと重みにすっかり包まれたのと同時に、
里香はブルブルブルっと、快感のあまり背筋を震わせた。
「んあっ……ああんっ! ゆういちの、おっ、おち○ちん……!」
里香は僕の下腹部に両手を付いて姿勢を安定させてはいたが、自分をまっすぐに貫く肉棒に、早くも喘がされていた。
「ははっ、久しぶりだから、感じてるのか……? んっ……!」
僕は里香の乱れぶりを喜びながらも、赤ちゃんのいるお腹への挿入が深くなりすぎるとまずいので、
結合している角度をやや斜め後ろにずらした後で、少し力を入れて突き上げた。
「やだあっ……身体が勝手に、ビクビクしちゃう……反応しちゃうっ……!」
里香は、自分が予想以上に快感を感じていることに戸惑っているようだった。
彼女の膣内も、何ヶ月か前にしたよりも、激しくうねって僕を歓迎している。
里香と僕が動く度に、里香の乳首が勃起した乳房や、大きなお腹が微かに揺れた。
「まったく、こんなエッチなお母さんじゃあ、ホントに赤ちゃんも呆れるよ」
右手で大きいお腹を撫でながら僕が言ったことに、里香は涙目で恥ずかしがりながら答えた。
「やぁん……!そんなこと、言わないでぇ……恥ずかしいよおっ」
大きなお腹を気遣い、恥ずかしがりながらも、しかし里香は腰を微妙に上下させることをやめなかった。
僕も里香の腰の動きに合わせて突き上げながら、言葉で彼女を愛撫し続けた。
「赤ちゃんは女の子なのにっ、お母さんに似て淫乱に育ったら困るなぁっ……! っ!」
「ふああんっ……!!」
短い嬌声と共に、僕に跨って腰を振るアンバランスに膨れた肢体がまたも震えたかと思うと、
こちらにも言いたいことがあるという調子で、里香の反論が始まった。
「バカッ……! あたしをこんな風にした、裕一だって悪いのよ……っ!あんっ‥‥!」
彼女は騎乗位で喘ぎながらも、何か真面目なことを僕に伝えようとしているらしい。
そして、次に彼女の口から紡がれた言葉が、僕を心底ドキッとさせた。
「……だってあたしは‥‥身体もっ、心もっ、全部、ゆういちのモノにされちゃったんだから……っ!」

(いのちをかけてきみのものになる、か……)
僕の子をその腹に宿し、目の前で乱れまくる里香を見ていると、何故かふと、始めて出会った頃の彼女の姿が脳裏に浮かんできた。

……あの頃の、かつて生意気で天の邪鬼だった病弱な女の子は、気がつけば僕の妻であり、更には一児の母になろうとしているのだ。
昔の里香は、か細い身体で生と死の淵を幾度となく彷徨い、生きたいと願っては目に涙を浮かべていた。
今の里香は、胎内に新しい命を宿し、様々な体液をまき散らしながら、愛し合うことの快感に悦び震えている。
どちらの里香がより生き生きしているかと言えば、もちろん後者だろう。
そして、里香にこんなにも大きな変貌をもたらしたのが自分であるということを改めて自覚した僕は、
これからも全身全霊で、里香と、そして僕と里香の赤ちゃんを愛して守っていこうと心に決めたのだった。
……僕は、また少し結合部の位置を調整することにした。
とは言っても今度は、挿入を浅くする為ではなく、深くする為にだ。
赤ちゃんの安全を考えると避けるべきなのだろうが、僕としてはそうしてでも里香への愛を伝えたかったのだ。
「里香、ちょっと手貸して」
「えっ……きゃっ!」
僕は里香の右手を左手で取ってギュッと握るのと同時に、彼女の背中を両足で少し押しつつ腰を浮き上がらせる。
すると、身体が下に向かってずれた里香が、僕の上にまっすぐに跨るようになった。
正中線の入った里香の丸いお腹が、僕の目の前に強調されている今の状態は、ある意味非常に扇情的だった。
また、まっすぐ跨ることで里香の体重がかかり、挿入もズズッと深くなってしまい、僕の快感は増し、里香は更に喘ぐことになる。
「うああっ……! ゆういち、これちょっと深……やああん!?」
里香が急に激しい嬌声を上げたのは、僕が右手を伸ばして、いきなり彼女の左乳房を揉みしだいたからだ。
乳房の下の方をグニグニグニグニと揉んでやると、ジュッ……と母乳が勃起した乳首から漏れてきて、里香の身体を白く汚す。
「あー、やっぱり溜まってたんだなぁ」
僕は他人事のように言いながら、更に里香の乳房をグニグニと揉みしだくと、
今度はもう少し勢いよく、ピュッと母乳が滲みだしてきた。
すると、今は直接愛撫されていないはずの、里香の右乳房の乳首からも、じんわりと母乳が垂れてきた。
同時に腰を激しく突き上げられたことで、里香ははしたなく舌を突き出して喘ぐしかなかった。
「はひっ!ひぃ……!やだ、またおっぱい出てるよぉ……」
里香は僕の左手を、断続的に力を入れて握りかえしてきた。
「うはは、これだけおっぱいが出るなら、いつ赤ちゃんが生まれても安心だなぁ」
僕がわざと明るく言うと、里香は恥ずかしさで死んでしまいそうな顔で言い返す。
「ばかぁっ、あたしのむねで、遊ばないでよおっ…………ふあっ!?」
里香が急に妙な感じで喘いだので、僕は気になって聞き返した。
「ん、どうした? 大丈夫?」
すると、里香からの答えはさほど異常なものではなかった。
「ううっ……お父さんが変なこと言ってるから、赤ちゃん動いちゃったみたい……。
 もう……気付かなかったの?」
里香はお腹を気遣うように撫でながら、僕に問いかけた。
「あぁ。……挿れてると、案外鈍感になるみたいでさ」
僕は腰を動かすのを一時やめて、肉襞の中のペニスに意識を集中した。
すると、里香の奥の方に赤ちゃんの温もりや動きをなんとなく感じられるような気がした。
が、もちろん、母体である里香ほどに敏感に感じることなどは出来ない。
やはり、軽率な行動は避けるべきだったのだろうか。
「赤ちゃん、びっくりしちゃったのかなぁ……」
僕が少し反省しながらそう言うと、里香はやや意地悪い表情をしながら返してきた。
「ふふ……案外、お父さんに下から突かれるのに合わせて、
 トランポリンみたいにお腹の中で跳ねて遊んでるのかも知れないわね」
想像力豊かな里香の解釈に、僕はなんとも言えない気持ちで笑うしかなかった。
「そういうこと考えると、あんまり集中出来なくなりそうだなぁ」
すると、里香は淫靡に微笑みながら、その双眸の中の劣情を再び大きく燃え上がらせた。
「……じゃ、そろそろ……終わりにしましょうか? ……ふぅん‥‥!」
そう言うと、里香は両手を僕の股間辺りに付け、両足に力を込めて、一生懸命に腰をズンズンと上下させ始めた。
「ハッ……ハァッ……!!」
その途端に、僕のペニスが里香の肉襞に激しく扱き上げられる。
「うあっ……! くぅっ……よし、俺だって……!」
里香に負けじと、僕は下腹部に力を込めつつ、左右に開かれている里香の太股を両手で掴み、
思い切り里香の中を上へとズンッと突き上げた。
すると、亀頭が何か、軟らかい壁のようなモノにぶつかって、クニュッと少し潰れたような気がした。
(ん、これはもしかして……)
僕の予想は、里香の言葉によって裏付けられた。
「ぁああんっ……!! 赤ちゃんの部屋に、ゆいちのおち○ちん当たってる……!」
里香ははしたなく舌を突き出しながら、深く挿入された僕のペニスが、
赤ちゃんがいる子宮の入り口をコツンと小突いたことを実況する。
更に里香と僕の上下運動は同調して、二人の快感を一気に高めていく。
「おち○ちんの先っぽ、しきゅうこうコツンコツンってノックしてる……!
 中に赤ちゃんいるのに……!あらひ、おかあさんらのにぃ……!」
里香は淫語を使いながら、自分で自分を確実に昂ぶらせていく。
「おかあさんになるのに、あらひっ……ゆいちのチ○ポ、きもひよくて……!ふわあっ!」
同時に、僕を強く締め付け、激しく射精を促してきた。
「ゆういひ……あらひ!もうらめっ、おかひくなるぅっ……!!
 イクッ!イっちゃうよおぉっ……!イカなきゃ、ほんとにおかひくなるよおっ……」
里香は快感のあまり泣き叫びながら、身重の身体を必死に上下させ、絶頂へと駆け上がってゆく。
「俺もっ、すぐイキそうだから……だから里香、我慢しないで……!」
僕はそう言いつつ、自分の下腹部に溜まりに溜まった熱が、高みへと放出されることを強く望んでいるのを感じていた。
「ふああっ!ひあああんっ……!!」
里香はと言うと、絶頂の予兆に背筋を震わせながら、僕のペニスを猛烈に責め立てる。
流石にお互いの限界が近いと感じた僕は、里香の奥を最上まで貫きながら、卑猥な言葉を発してやった。
「ほらっ……! もうすぐっ、里香が大好きな俺の濃厚ザーメン、久しぶりにたくさん中出してやるからな……!?
 赤ちゃんびっくりするくらいにっ、一番深いところでっ、ドピュドピュ射精するからなっ!」
「ふあああっ、ゆういひぃ……らいすきいぃぃ……!!」

――もはや快感に理性をほとんど塗りつぶされ、涎と淫らな言動をまき散らす僕と里香は、
それでもお互いへの愛は保ったまま、ついにこれ以上ない高みへと達した。
「うおっ、だ、出すぞ……! りかぁっ〜〜…‥‥!!」
僕は射精感がピークに達するのと同時に、臍の下辺りに強く力を込めた。
すると、ドビュドビュドビュッ……!というかなりの勢いで、
灼熱の白濁した奔流が解き放たれ、腰から頭を麻痺させるような激しい快感が起こるのと共に、肉棒がドクンドクンと脈打つ。
そして、解き放たれた精液が、騎乗位で繋がる里香の奥へとぶちまけられるのとほぼ同時に、
あるいは前後して、里香も高みへと達したようだ。
「ひゃああぁぅっ!? ……ああっぁあああっ! んあああああぁぁぁッッ〜〜………!!」
その時、里香は両目を瞑り、背筋を弓なりに反らして、大きなお腹ごと身体を激しくブルブルと震わせながら、心の底から悦楽の叫び声を上げた。
「ああああんっ!! んんっ、んん゛―ッ……! ふううッんうう゛―ッ…………!!」
僕の下腹部に置かれた里香の両手は、痛いくらいに力を込めて僕と里香自身を押さえつける。
それに呼応するかのように、里香の膣は僕を痛いくらいに気持ちよく締め上げてきた。
里香の膣は、まるで最後の一滴たりとも子種は逃さないという風に、断続的にきゅんきゅんと収縮してくる。
もちろん、その動きから僕が逃れられるハズもなく、文字通り精も根も尽き果てるくらい、里香の中に精を放つことになってしまった。

「くぅっ、はぁっ……!」
「ふああっ、あああんっ……!うあっ……」
僕と里香は、快感のあまり二人揃って腰が抜けたこともあって、しばらくは繋がったままの姿勢でいた。
その間の僕と里香は、余韻というにはあまりに大きい快感のさざ波に、不規則的に喘がされ、揺られ続けた。

結局このセックスは、僕と里香が事後に、互いのことを相変わらずだなぁと皮肉る気も起きないくらいに激しく、
そして充実したものになったのだった―――。
―――事が終わった後、裸のままの僕はベッドの上で、里香のお腹に触りながら仰向けになり、ゆっくりと事後を愉しんでいる。
里香も生まれた姿のまま、大きなお腹を優しく撫でながら、落ち着いた感じの心地良い余韻に浸っていた。
なお、汗や精液や愛液や、あるいは母乳等の体液は、
そのままにしておくのもどうかと思ったので、僕がティッシュであらかた拭き取っておいた。
が、それでも不十分なのは明らかなので、後でシーツの掛け替えや、布団カバーの洗濯が必要なのは言うまでもないが……。
里香のお産が近くて忙しい時に、余計な仕事が増えてしまったなという感じはしたが、
さきほどの素晴らしいセックスの引き替えだと思えば、我慢出来るものではあった。

「……なぁ、里香」
里香のお腹を抱いて、少し湿った感じのするベッドの上で寝ていた僕は、
前々から自分が気にしていたことを、里香に問いかけることにした。
直に触れている里香のお腹の温もりが、僕にそうさせたのかも知れない。
「……ん? なに?」
里香は、少し気だるそうな、穏やかな口調で僕に反応した。
「こんなこと、今更言っちゃいけないかも知れないけど」
あれだけ里香との愛を確かめあった後だからこそ、
僕は里香に次の問いを投げかけることが出来た。

「……俺は、良いお父さんに……なれるかな?」

僕の問いに、里香は少し間を持った上で、頬を綻ばせて丁寧に言葉を選んで答えてくれた。
「……そうね、少なくとも、裕一は旦那さんとしては良い部類に入るとは思うし、
 あたしだって正直、良い母親になれる自信なんて無いわ。
 だから、そんなに気にしなくてもいいんじゃないかしら?」
里香の純粋な思いやりに溢れた言葉に、僕も頬を綻ばせたが、
「里香にそう言われると、助かるけどさ……」
自分の生い立ちに、良くも悪くも影響を与えた、父親の不在という問題は、
自分が父親になる際に、どんな影響を及ぼすのか、なんとも言えず不安だった。
「……ほら、たまに話してる通り、俺は親父があんなんだったから、良いお手本が無いっていうか、
 自分がどんな父親になったらいいのか、あんまり想像できなくてさ‥‥」
僕は、口調が暗くなりすぎないようにしながら、もう少し言葉を紡ぎ続けた。
「いやもちろん、あんな父親になるつもりはないよ。ただ、やっぱり不安なんだ」
つまり、このことは、僕と似たような境遇を抱えていて、これから一緒に子育てをしていく里香に対しては、
ちゃんと意見を求めておくべきことなのだ。
……すると、里香は僕の問いに対して、案外早く口を開いてくれた。
「……あたしもね、裕一と同じように、パパが早くに死んじゃったから、裕一のその気持ちはわかるわ、でもね……」
里香はそこで一回息継ぎの為に言葉を切ると、小さな口で一気に話し続けた。
「親はね、子供が出来たら親になるんじゃなくて、
 子供から色んなことを学んで、少しずつ親になっていくって、ママに聞いたことあるし、何かの本でも読んだことがあるわ。
 ……だから、あたしも裕一も、色んなことちゃんと勉強して、良い親になりましょ? そしたらきっと、大丈夫よ」
そう穏やかに言い切った里香の顔には、もはやかつての病弱な娘の面影はなく、母親らしい優しさと逞しさがあった。
里香の様子にハッとした僕は、次の瞬間に様々なモノが胸に去来して、思わず泣きそうになっていた。
「そうか……父親のいない俺でも、お父さんになれるんだな」
自分の口でそう言ってみて……僕は改めて、里香と結ばれて、そして子を作ることが出来て、本当に良かったと感じた。
「里香はホントに、色々知ってるよなぁ……。はぁ、赤ちゃんに本の読み聞かせとかしてあげるのは、里香に任せるよ」
里香という女性の偉大さが再び理解出来た反動か、僕は急によくわからない話題で、雰囲気を変えることをしてしまった。
「あら……お父さんが娘に甘えてもらえるのは、小さい頃だけなのに、そんなことでいいの?
 それに、時代とか世間は関係なく、お父さんも多少は子育てに参加しなきゃダメだよ」
整った眉毛をやや釣り上げて、なんだか所帯じみているようなことを言う里香に、僕は思わず苦笑してしまった。
「ははは……あんまり、そういうことまで考えたくないなぁ……」
すると、里香のお腹に当てている僕の右手に、何かの振動が伝わってきた。
「あっ、また動いてる……!」
どうやら、里香の言う通り、大きなお腹の中にいる赤ちゃんがまたも動いたらしい。
「しっかし、元気なもんだなぁ、この赤ちゃんはさ‥‥」
僕が里香のお腹を撫でながら言った素直な感想に、里香も嬉しそうにお腹を撫でながら相づちを打つ。
「うん。多分、あたしたちの会話に加わりたいんじゃないかしら」
「だね。少なくとも、何か話してることだけはわかるだろうし」
僕の言葉に対して、里香はふんわりと、しかし微かに淫靡さを漂わせて笑いながらこう言う。
「ふふ、あたしたち、あんまり胎教はしなかったけど……あたしたちの仲の良さは、もう嫌という程赤ちゃんに伝わってるでしょうね」
「はは……ちょっと、恥ずかしいけどな」
僕が気恥ずかしくなって後頭部を掻いたのを見て、また笑った里香は、
次にとても柔らかく微笑みながら、お腹を愛おしそうに撫でて―――
「早く生まれておいで……世界にはね、辛いこともたくさんあるけど、楽しいことも、いっぱいあるんだよ」
と、既に赤ちゃんが生まれていて目の前にいるかのように、
ゆっくりとお腹の中の赤ちゃんに向かって話しかけた。
「……里香」
たった今里香が言ったような言葉を、説得力を伴って言う資格があるのは、
やはり里香のような人間しかいないだろうと考えると、僕は再び目頭が熱くなってきた。
そのことが里香に気付かれていないのは、ある意味幸運だった。
(あぁ、流石にそろそろ、赤ちゃんの名前決めなきゃなぁ……)
僕はそう思いながら、赤ちゃんが宿る満月のようなお腹を撫でていた右手を使って、自分の涙を拭うのだった。
次に僕が涙を流す時は、赤ちゃんが無事に産まれてくる時であって欲しいと、心から願いながら……。


終わり



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